「心理的安全性」という言葉の認知が広がっています。
Googleで人材開発を担当していたピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、自身の著書『心理的安全性 最強の教科書』の中で、チームが最高の成果を生むためには心理的安全性が欠かせないと説き、心理的安全性が確立された状態を以下のように定義しています。
(1)対人関係においてリスクのある行動を取っても、『このチームならばかにされたり罰せられたりしない』と信じられる状態
(2)メンバーがネガティブなプレッシャーを受けずに自分らしくいられる状態
(3)お互いに高め合える関係を持って、建設的な意見の対立が推奨されること
このうち、特にエンジニアの組織において重要になるのは (3)。なぜなら、エンジニアは多様なアイデアをもとに新しい価値を産出す仕事だからだと述べており、私も共感するところが多いです。
「こんなことを言うと相手のメンツをつぶしてしまうかも」と忖度することは、組織やプロダクトのためにならないし、より良いプロダクトを開発するためには建設的な意見の対立が必要です。
間違った方向へ進んでいるのに、対立を恐れて「いいね」と肯定するのは健全な態度ではありません。開発が進むにつれて大変なことになりかねませんよね。
また、心理的安全性を高めるために必要なのは、「楽しく盛り上げること」ではなく「親身になること」が重要だと思います。例えば開発の過程でメンバーが間違った努力をしているのに、「頑張っているから」と応援するだけでは、本人はもちろん、プロジェクト全体にとって良い結果になりません。それなら率直に「その方向は違うよ」と伝えた方がプロジェクトの進捗も修正できるし、技術者として正しく成長させることができるはずです。
開発チームは仲良しグループではなくプロジェクトを成功に導くための集団、プロジェクトのメンバーは同志であると意識しながら行動すべきです。
そして、マネージャーさんはチームのゴールを明確に、また何をもってチームの「成功」とみなすのかの定義も明確にし、全員の意識をそこへ向けることに重きを置いてプロジェクトを運営しなければなりません。
大切なのは、マネージャーさんが自分の成功事例に頼らないことです。会社組織は生き物ですから、過去に成功した手法であっても、今向き合っているチームに適用できるかどうかは分かりません。チームの一人一人と人間として向き合って、信頼し任せ挑戦させることでベストなパフォーマンスを引き出すことに重きを置くべきです。その原点さえ意識し続ければ、形だけのマネジメントに陥らず、真の意味での心理的安全性を実現できるはずだと信じています。
つくばソフトウェアエンジニアリング株式会社 代表取締役社長 平島隆之